大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)297号 判決

主文

本件上告はいずれもこれを棄却する。

理由

被告人両名辯護人松永東同野原松次郎同名尾良孝上告趣意第一點は「原判決ハ次ノ如キ理由不備ニヨリ破毀ヲ免レサルモノト信ス即チ原判決ハ其ノ理由ニ於テ第一點ハ被告人等ト小浜雪男及岸本光明カ共同シテ窃盗セル事実ヲ認メ第二點ニ於テ被告人野口ト小浜雪男ト共同シテ強盗セル事実ヲ認メ各獨立ノ犯罪トシテ両者ノ間ニ連續犯ノ規定ヲ適用シ之カ證據トシテ(一)被告人両名ノ當法廷ニ於ケル供述中判示第一ト同一ノ供述(二)被告人野口廣治ノ當公廷ニ於ケル供述ノ一部(三)原審公判調書中被告人野口廣治ノ供述ノ一部(四)被告人諸口彦次郎ノ當公廷ニ於ケル供述の一部(五)被告人諸口彦次郎ノ檢事聽取書ノ一部(六)當審公判廷ニ於ケル證人小浜雪男ノ供述(七)當公判廷ニ於ケル證人岸本光明ノ供述(八)當審證人根岸弥五郎證人訊問中判示第一第二ニ照應スル被害顛末(九)根岸弥三郎ノ提出ノ犯罪屆書ノ一部ヲ綜合シテ之ヲ認メタト判示セリ然レトモ第一第二ノ事実ハ何レモ獨立ノ犯罪トシテ認定セラレタルヲ以テ之カ證據説明ハ刑事訴訟法第三百六十條ノ規定ヨリスルモ各犯罪毎に爲サルルカ又ハ少クトモ之カ證據トシテハ別個ノ犯罪事実ノ證據ト紛糾ヲ來ササル樣判然トセル證據説明ヲ爲スコトヲ要スルモノトス然ルニ原判決ノ證據説明ヲ見ルニ其ノ證據中ニハ第一第二ノ犯罪事実ニ共通スルモノアリ又第一ノ事実ニノミ採用セラルルモノアリ又第二ノ事実ニノミ該當スルモノアリ而シソレ等ハ何レモ漫然トシテ羅列シアルニ止リ何レヲ以テ第一第二ノ事実ヲ認定セルヤ判然トセサルノミナラス全部ヲ共通ニシテ認定セリト爲スニハ證據トシテ事実認定ニ符合セサルモノアルヲ以テ結局原判決ハ理由不備ニ付キ破毀ヲ免レサルモノト信ス」というにある。

しかし、數個の證據を綜合して事実を認定する場合には、個々の證據を各別に觀察すると、それが事実の如何なる部分の證明に役立つか紛らわしいことがあっても、これら數個の證據がかれこれ關連して相互に矛盾しない限り、それらを綜合しておのずから特定の事実が認定されるにおいては、このような證據説示の方法も許されるべきであって、これを目して違法ということはできない。これを原判決の證據説明について觀ると、判示第一及び第二事実を総括して認定するに當って數個の證據を羅列しており、各個の證據を各別に檢討すると、共通のものもあり、第一若しくは第二の各事実のみに關するものもあって、それが如何なる部分の認定を目指すのか必ずしも明かでないものもあることは所論のとおりであるが、これらの證據を綜合して判斷するとおのずから判示第一及び第二の各事実の全體を認定し得られるのであるから原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四百四十六條により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例